ながら、それでも最初の目的|通《どほり》、夫人と戦つて見ようと決心した。
「先刻《さつき》は大変失礼しましたこと。あの方達を帰してしまつた後で、ゆつくり貴君《あなた》とお話がしたかつたのよ。差し上げました御手紙御覧下すつて?」
「見ました。」
信一郎は、自分の決心を、動かすまいと、しつかりと云ひ放つた。
「何うお考へ遊ばして?」
夫人は、追窮するやうに、美しく笑ひながら訊いた。信一郎は、可なりハツキリした口調で云つた。
「貴女《あなた》の本当のお心持が、分らないものですから、何うお答へしてよいか当惑する丈《だけ》です。」
「あれでお分りにならないの。あれで、十分分つて下すつてもいゝと思ひますの。妾《わたくし》が、貴君のことを何う考へてゐますか。」
夫人の顔に可なり、真剣な色が動いた。信一郎も、ある丈の力を以て云つた。
「奥さん! 何うか記憶して置いて下さい! 僕には妻がありますから、家庭がありますから、貴女の危険なお戯れのお相手は出来ませんから。」
信一郎は、妻の静子の面影や、青木淳の死相を心の味方として、この強敵に向つてハツキリと断言した。
五
その刹那
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