に、腰をおろしてゐた。窓からは、宏大な庭園が、七月の太陽に輝いてゐるのが見えた。
夫人は、なか/\姿を見せなかつた。小間使が氷の入つた果実汁《シロップ》を持つて来た後も、なかなか姿を見せなかつた。
彼は、所在なさに、室内の装飾をあれからこれへと、見直してゐた。その裡に、ふと三尺とは離れてゐない卓《デスク》の上に、眼が付いた。其処には、先刻信一郎が受け取つたのと同じ色のレタアペイパアと、金飾の華やかな婦人持の万年筆とが、置かれてゐた。先刻の手紙は、恐らくこの桃花心木《マホガニイ》の小さい卓で書いたのに違ひない。さう思つて見てゐる中に、ふと一枚のレタアペイパアに、英語か仏蘭西語かが書かれてゐるのに気が付いた。彼の好奇心は、動いた。彼は、少し上体を、その方に延ばしながら、それを読んだ。
(Shinichiro)
彼は、自分の名前が書かれてゐるのに驚いた。が、その次ぎの二字を見たときに、彼の駭きは十倍した。
(Shinichiro, my love !)
『信一郎、|わが恋人《マイラヴ》よ!』
而も、その同じ句がそのレタアペイパアの上に、鮮かな筆触で幾つも/\走り書きされてゐる
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