が、その渦巻の中で彼は自ら強く決心した。『彼女の誘惑を粉砕せよ!』と。
もう再びは潜るまいと決心した花崗岩の石門に、自動車は速力を僅に緩めながら進み入つた。もう再びは、足を踏むまいと思つた車寄せの石段を、彼は再び昇つた。が、先刻は夫人に対する讃美と憧れの心で、胸を躍らしながら、が、今は夫人に対する反感と憤怒とで、心を狂はせながら。
取次ぎに出たものは、あの可愛い少年の代りに、十七ばかりの少女だつた。
「奥様がお待ちかねでございます。さあ、どうかお上り下さいませ。」
信一郎は、それに会釈する丈《だけ》の心の余裕もなかつた。彼は黙々として、少女の後に従つた。
少女は先刻の客間《サロン》の方へ導かないで、玄関の広間《ホール》から、直ぐ二階へ導く階段を上つて行つた。
「あの、お部屋の方にお通し申すやうに仰しやつてゐましたから。」
信一郎が一寸躊躇するのを見ると、少女は振り返つてさう言つた。
階段を昇り切つた取つ付きの部屋が、夫人の居間だつた。少女は軽く叩《ノック》したが、内から応ずる気勢《けはひ》がしなかつた。
「あら! いらつしやらないのかしら。それではどうか、お入りになつて、お
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