を、取とめもなく考へてゐると、信一郎は一刻も早く、目的地に着いて初々しい静子の透き通るやうなくゝり[#「くゝり」に傍点]顎の辺《あたり》を、軽く撫《パット》してやりたくて、仕様がなくなつて来た。
『僅か一週間、離れてゐると、もうそんなに逢ひたくて、堪らないのか。』と自分自身心の中で、さう反問すると、信一郎は駄々つ子か何かのやうに、じれ切つてゐる自分が気恥しくないこともなかつた。
 が、新婚後、まだ幾日にもならない信一郎に取つては、僅《わずか》一週間ばかりの短い月日が、どんなにか長く、三月も四月もに相当するやうに思はれた事だらう。静子が、急性肺炎の病後のために、医者から温泉行を、勧められた時にも、信一郎は自分の手許から、妻を半日でも一日でも、手放して置くことが、不安な淋しい事のやうに思はれて、仕方がなかつた。それかと云つて、結婚のため、半月以上も、勤先を欠勤してゐる彼には休暇を貰ふ口実などは、何も残つてゐなかつた。彼は止むなく先週の日曜日に妻と女中とを、湯河原へ伴ふと、直ぐその日に東京へ帰つて来たのである。
 今朝着いた手紙から見ると、もうスツカリ好くなつてゐるに違ひない。明日の日曜に、
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