僕は明治時代第一の文豪として一葉を推しますね。」
 秋山氏は、如何にも芸術家らしい冷静と力とを以て、昂然とさう云ひ放つた。
 信一郎は、もう先刻からぢり/\と湧いて来る不愉快さのために、一刻もぢつとしてはゐられないやうな心持だつた。凡てが不愉快だつた。凡てが、癪に触つた。樫の棒をでも持つて、一座の人間を片ツ端から、殴り付けてやりたいやうにいら/\してゐた。
 さうした信一郎の心持を、知つてか知らずにか、夫人は何気ないやうに微笑しながら、
「渥美さん! しつかり遊ばしませ。大変お旗色が悪いやうでございますね。」

        二

 信一郎が、フラ/\と立ち上るのを見ると、皆は彼が大に論じ始めるのかと思つてゐた。が、今彼の心には、樋口一葉も尾崎紅葉もなかつた。たゞ、瑠璃子夫人に対する――夫人の移り易きこと浮草の如き不信に対する憎みと、恨みとで胸の中が燃え狂つてゐたのだつた。
 彼は一刻も早く此席を脱したかつた。彼は其処に蒐まつてゐる男性に対しても、激しい憎悪と反感とを感ぜずにはゐられなかつた。
「奥さん! 僕は失礼します。僕は。」
 彼は、感情の激しい渦巻のために、何と挨拶してよいの
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