』! ありや明治文学第一の傑作ですね。」
「ありや、僕も昔読んだことがある。ありや確《たしか》にいゝ。」
「あゝさう/\、吉原の附近が、光景になつてゐる小説ですか、それなら私も読んだことがある。坊さんの息子か何かがゐたぢやありませんか。」
「女主人公が、それを潜《ひそか》に恋してゐる。が、勝気なので、口には云ひ出せない。その中に、一寸した意地から不和になつてしまふ。」
「信如とか何とか云ふ坊さんの子が、下駄の緒を切らして困つてゐると、美登利が、紅入友禅か何かの布片《きれ》を出してやるのを、信如が妙な意地と遠慮とで使はない。あの光景なんか今でもハツキリと思ひ出せる。」
代議士の富田氏までが、そんなことを云ひ出した。かうした一座の迎合を、秋山氏は冷然と、聴き流しながら、最後の断案を下すやうに云つた。
「兎に角、明治の作家の中《うち》で、本当に人間の心を描いた作家は、一葉の外にはありませんからね。硯友社の作家が、文章などに浮身を窶して、本当に人間が描けなかつた中で、一葉丈は嶄然として独自の位置を占めてゐますからね。一代の驕児高山樗牛が、一葉|丈《だけ》には頭を下げたのも無理はありませんよ。
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