たやうに、小山男爵は、横から口を入れた。
「第一『金色夜叉』なんか、あんなに世間で読まれてゐると云ふことが、通俗小説である第一の証拠だよ。万人向きの小説なんかに、碌なものがある訳はないからね。」
二人の、攻撃的な挑戦的な口調を聴いてゐると、信一郎もつい、ムカ/\となつてしまつた。瑠璃子夫人はと見ると、その平静な顔に、嗾《けし》かけるやうな微笑を湛へて、『貴君《あなた》も負けないで、しつかりおやりなさい。』と、云ふやうに信一郎の顔を見てゐた。
「それは可笑《をか》しいですな。」
さう云ひながら、信一郎は何処か貴族的な傲慢さが、漂《たゞよ》うてゐる小山男爵の顔をぢつと見た。
「そんな暴論はありませんよ。広く読まれてゐるのが、通俗小説の証拠ですつて、そんな暴論はないと思ひますね。さう云ふ議論をすれば、沙翁《シエクスピア》の戯曲だつて、通俗戯曲だと云ふことになるぢやありませんか。ホーマアの詩だつて、ダンテの神曲だつて、みんな広く読まれてゐると云ふ点で、通俗的作品と云ふことになりさうですね。僕は、さうは思ひませんよ。それと反対に、立派な芸術的作品ほど、時代が経てば、だん/\通俗化して行くのだ
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