さないのを見ると、三宅と云ふ文科の学生が、可なり熱心な口調でさう云つた。先刻から続いて、明治末期の小説家国木田独歩を論じてゐるらしかつた。
「それに、独歩のやうな作品は、外国の自然派の作家には幾何《いくら》でもあるのだからね。先駆者と云ふよりも、或意味では移入者だ。日本の文学に対して、ある新鮮さを寄与したことは確《たしか》だが、それがあの人の創造であるとは云はれないね。外国文学の移植なのだ。ねえ! さうではありませんか、奥さん!」
モーニングを着た小山男爵は、自分の見識に対する夫人の賞讃を期待してゐるやうに、自信に充ちて云つた。
「でも妾《わたくし》、可なり独歩を買つてゐますのよ。明治時代の作家で、本当に人生を見てゐた作家は、独歩の外にさう沢山はないやうに思ひますのよ。ねえ、さうぢやございませんか。渥美さん。」
夫人は、多くの男性の中から、信一郎|丈《だけ》を、選んだやうに、信一郎の賛意を求めた。が、信一郎は不幸にも、独歩の作品を、余り沢山読んでゐなかつた。四五年も前に、『運命論者』や『牛肉と馬鈴薯』などを読んだことがあるが、それが何う云ふ作品であつたか、もう記憶にはなかつた。が、
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