限りの空しい夢と消えないで、実生活の上に、ちやんとした根を下して来たことが、信一郎には此上なく嬉しかつた。彼は絨毯の上を、しつかりと歩んでゐた積《つもり》であつたが、もし傍観者があつたならば、その足付が、宛然《まるきり》躍つてゐるやうに見えたかも知れない。夫人と、美しい客間で二人|限《ぎ》り、何の邪魔もなしに、日曜の午後を愉快に語り暮すことが出来る。さうした楽しい予感で、信一郎の心は、はち切れさうに一杯だつた。
長い廊下を、十間ばかり来たとき、少年は立ち止まつて、其処の扉《ドア》を指《ゆびさ》した。
「此方《こちら》でございます。」
信一郎は、その中に瑠璃子夫人が、腕椅子に身体を埋ませるやうに掛けながら、自分を待つてゐるのを想像した。
彼は、興奮の余り、かすかに顫へさうな手を扉《ドア》の把手にかけた。彼が、胸一杯の幸福と歓喜とに充されて、その扉《ドア》を静かに開けたとき、部屋の中から、波の崩れるやうに、ワーツと彼を襲つて来たものは、数多い男性が一斉に笑つた笑ひ声だつた。
彼は、不意に頭から、水をかけられたやうに、ゾツとして立ち竦《すく》んだ。
三
彼がハツ
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