と立ち竦んだ時には、もう半身は客間の中に入つてゐた。
凡てが、意外だつた。瑠璃子夫人の華奢なスラリとした、身体の代りに、其処に十人に近い男性が色々な椅子に、いろいろな姿勢で以つて陣取つてゐた。瑠璃子夫人はと見ると、これらの惑星に囲まれた太陽のやうに、客間の中央に、女王のやうな美しさと威厳とを以て、大きい、彼女の身体を埋《うづ》めてしまひさうな腕椅子に、ゆつたりと腰を下してゐた。
楽しい予想が、滅茶々々になつてしまつた信一郎は、もし事情が許すならば、一目散に逃げ出したいと思つた。が、彼が一足踏み入れた瞬間に、もうみんなの視線は、彼の上に蒐まつてゐた。
「あゝ、お前もやつて来たのだな。」と、云つたやうな表情が、薄笑ひと共に、彼等の顔の上に浮んでゐた。信一郎は、さうした表情に依つて可なり傷けられた。
瑠璃子夫人は、遉《さすが》に目敏く彼を見ると、直ぐ立ち上つた。
「あ、よくいらつしやいました。さあ、どうぞ。お掛け下さいまし。先刻からお待ちしてゐました。」
さう云ひながら、彼女は部屋の中を見廻して、空椅子を見付けると、その空椅子の直ぐ傍にゐた学生に、
「あゝ阿部さん一寸その椅子を!」と
前へ
次へ
全625ページ中365ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング