度《きつと》心から待つてゐて呉れるに違《ちがひ》ない。心から、歓び迎へて呉れるに違《ちがひ》ない。さう思ひながら、彼は「|押せ《プッセ》!」と、仏蘭西《フランス》語で書いてある呼鈴に手を触れた。
 この前、来たときと同じやうに、小さい軽い靴音が、それに応じた。扉《ドア》が静《しづか》に押し開けられると、一度見たことのある少年が、名刺受の銀の盆を、手にしながら、笑靨《ゑくぼ》のある可愛い顔を現した。
「あのう、奥様にお目にかゝりたいのですが。」
 信一郎が、さう言ふと少年は待つてゐたと云はんばかりに、
「失礼でございますが、渥美さまとおつしやいますか。」
 信一郎は軽く肯いた。
「渥美さまなら、直ぐ何うかお通り下さいませ。」
 少年は、慇懃に扉《ドア》を開けて、奥を指《ゆびさ》した。
「何うか此方《こちら》へ。今日は奥の方の客間にいらつしやいますから。」
 敷き詰めてある青い絨毯の上を、少年の後から歩む信一郎の心は、可なり激しく興奮した。自分の名前を、ちやんと玄関番へ伝へてある夫人の心遣ひが、嬉しかつた。一夜夫人と語り明したことさへ生涯に二度と得がたい幸福であると思つてゐた。それが、一夜
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