ても、今日はもつと、自分の考へも話して見よう。自分の平生の造詣を、十分披瀝して見よう。信一郎はさう考へながら、夫人のそれに対する溌剌たる受答《うけこたへ》や表情を絶えず頭の中に描き出しながら何時の間にか五番町の宏壮な夫人の邸宅の前に立つてゐる自分を見出した。
 お濠の堤《どて》の青草や、向う側の堤の松や、大使館前の葉桜の林などには、十日ほど前に来たときなどよりも、もつと激しい夏の色が動いてゐた。
 十日ほど前には、可なりビク/\と潜つた花崗石《みかげいし》らしい大石門を、今日は可なり自信に充ちた歩調で潜ることが出来た。
 楓を植ゑ込んである馬車廻しの中に、たゞ一本の百日紅《さるすべり》が、もう可なり強い日光の中に、赤く咲き乱れてゐるのが目に付いた。
 遉《さすが》に、大理石の柱が、並んでゐる車寄せに立つたとき、胸があやしく動揺するのを感じた。が、夫人が別れ際に、再び繰り返して、
「本当にお暇なとき、何時でもいらしつて下さい。誰も気の置ける人はゐませんのよ。妾《わたくし》がお山の大将をしてゐるのでございますから。」と、言つた言葉が、彼に元気を与へた。その上に、あれほど堅く約束した以上、屹
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