つた。美しい妖精に魅せられた少年のやうに、信一郎は顔を薄赤く、ほてらせながら、たゞ茫然と黙つてゐた。
 夫人は、ひらりと身を躱《かは》すやうに、真面目なしんみりとした態度に帰つてゐた。
「でも、妾《わたくし》、こんな打ち解けたお話をするのは、貴君が初めてなのよ、文学や思想などに、理解のない方に、こんなお話をすると、直ぐ誤解されてしまふのですもの、妾《わたくし》、かねてから、貴君《あなた》のやうなお友達が欲しかつたの、本当に妾《わたくし》の心持を、聴いて下さるやうな男性のお友達が、欲しかつたの、二人の異性の間には、真の友情は成り立たないなどと云ふのは嘘でございますわね、異性の間の友情は、恋愛への階段だなどと云ふのは、嘘でございますわね。本当に自覚してゐる異性の間なら、立派な友情が何時までも続くと思ひますの。貴方《あなた》と妾《わたくし》との間で、先例を開いてもいゝと思ひますわ。ほゝゝゝ。」
 夫人は、真の友情を説きながらも、その美しい唇は、悩ましきまでに、信一郎の右の頬近く寄せられてゐた。信一郎は、うつとりとした心持で、阿片《アヘン》吸入者が、毒と知りながら、その恍惚たる感覚に、身体を委
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