丈《だけ》人目を惹き易い女性と、たつた二人連れ立つて、公然と入つて行くことが、可なり気になつた。
が、信一郎のさうした心遣ひを、救けるやうに、舞台では今丁度幕が開いたと見え、廊下には、遅れた二三の観客が、急ぎ足に、座席《シート》へ帰つて行くところだつた。
夫人と並んで、広い空しいボックスの一番前方に、腰を下したとき、信一郎はやつと、自分の心が落着いて来るのを感じた。舞台が、煌々と明るいのに比べて、観客席が、ほの暗いのが嬉しかつた。
夫人は席へ着いたとき、二三分ばかり舞台を見詰めてゐたが、ふと信一郎の方を振り返ると、
「本当に御迷惑ぢやございませんでしたの。芝居はお嫌ひぢやありませんの。」
「いゝえ! 大好きです。尤も、今の歌舞伎芝居には可なり不満ですがね。」
「妾《わたくし》も、さうですの。外に行く処もありませんからよく参りますが、妾《わたくし》達の実生活と歌舞伎芝居の世界とは、もう丸きり違つてゐるのでございますものね。歌舞伎に出て来る女性と云へば、みんな個性のない自我のない、古い道徳の人形のやうな女ばかりでございますのね。」
「同感です。全く同感です。」
信一郎は、心から夫人
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