困りますわ。妾《わたくし》本当は、お茶でもいたゞきながら、ゆつくりお話がしたかつたのでございますよ。それだのに、ついこんなに遅くなつてしまつたのですもの。せめて、一緒に乗つていたゞいて、お話したいと思ひますの。死んだ青木さんのことなども、お話したいことがございますのよ。」
「でも御迷惑ぢやございませんか。」
 信一郎は、もう可なり、同乗する興味に、動かされながら、それでも口先ではかう云つて見た。
「あら、御冗談でございませう。御迷惑なのは、貴君《あなた》ではございませんか。」
 夫人の言葉は、銘刀のやうに鮮かな冴を持つてゐた。信一郎が、夫人の奔放な言葉に圧せられたやうに、モヂ/\してゐる間に、夫人はボーイに合図した。ボーイは、玄関に立つて、声高く自動車を呼んだ。
 暮れなやむ初夏の宵の夕暗《ゆふやみ》に、今点火したばかりの、眩しいやうな頭光《ヘッドライト》を輝かしながら、青山の葬場で一度見たことのある青色大型の自動車は、軽い爆音を立てながら、玄関へ横付になつた。会衆は悉く散じ去つて、供待《ともまち》する俥も自動車一台も残つてゐなかつた。
「さあ! 貴君《あなた》から。」
 信一郎の確な
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