の刹那に於て、精神的にも瑠璃子に破られてゐただらうか。
 否! 否! 瑠璃子自身の良心が、それを否定してゐる。愈々、死が迫つて来た時の勝平の心は、彼の一生の凡ての罪悪を償ひ得るほどに、美しく輝いて居たではないか。
 彼は、自分の容《ゆる》しを瑠璃子に乞うた上、二人の愛児の行末を、瑠璃子に頼んでゐる。彼は名ばかりの妻から、夫として堪へがたき反抗を受けながら、尚彼女に美しき信頼を置かうとしてゐる。
 それよりも、もつと瑠璃子の心を穿つたものは、彼が臨終の時に示した子供に対する、綿々たる愛だつた。格闘の相手が――従つて彼の死の原因が――勝彦であることを知りながらも、此の愚なる子の行末を、苦しき臨終の刹那に気遣つてゐる。彼の人間らしい心は、その死床に於て、燦然として輝いたではないか。
 彼を敵として結婚し、結婚してからも、彼に心身を許さないことに依つて、彼に悶々の悩みを嘗《な》めさせ、それが半ば偶然であるとは云へ、勝彦を操ることに依つて、畜生道の苦しみを味はせた自分を死の刹那に於て心から信頼してゐる。さうした言葉を聴いたとき、瑠璃子の良心は、可なり深い痛手を負はずにはゐられなかつた。
 悪魔だ
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