ために、カンフル注射をやつて見ませう。」
医師は、手早くその用意をしてしまふと、今肉体を去らうとして、たゆたうてゐる魂を、呼び返すために、巧みに注射針を操つて、一筒のカンフルを体内に注いだ。
医師は、注射の反応を待ちながらも、二三度人工呼吸を試みた。が、勝平の身体は、刻一刻、人間特有の温みと生気とを失ひつゝあつた。その巨きい顔に、死相がアリ/\と刻まれてゐた。
「お気の毒ですが、もう何とも仕方がありません。」
医師は、死に対する人間の無力を現すやうに、悄然と最後の宣告を下した。
八
戦は終つた。不意に突然に意外に、敵は今彼女の眼前に、何の力もなく何の意地もなく土塊の如くに横はつてゐる。
彼女は見事に勝つた。勝つたのに違ひなかつた。傲岸な、金の力に依つて、人間の道を蔑《なみ》しようとした相手は倒れてゐる。さうだ! 勝利は明かだ。
が、勝平の死顔をぢつと見詰めてゐる時に、彼女の心に湧いて来たものは、勝の欣びではなくしてむしろ勝の悲しみだつた。勝利の悲哀だつた。確《たしか》に勝つてゐる。が、勝平の肉体に勝つた如く、彼の精神にも勝ち得ただらうか。勝平は、その瀕死
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