それが強盗でないことは、判つてゐた。が、不意に耳を襲つた頓狂な笑ひ声に依つては、それが何人《なんぴと》であるかは、瑠璃子にも判らなかつた。彼女は、ぢつと眸を凝して、それが自分の怖れてゐる如く、恋人の直也ではありはしないかと、闇の中を見詰めて居た。
丁度その時に、喜太郎の大きい怒声に依つて、朧気な意識を恢復したらしい勝平は、低くうめくやうに云つた。
「射つな、射つたらいけないぞ!」
それは、一生懸命な必死な言葉だつた。さう云つてしまふと、勝平はまたグタリと死んだやうになつてしまつた。
主人の言葉を聴くと、喜太郎は何かを悟つたやうに鉄砲を、投げ出すと、ぢり/\と見知らぬ男の方に近づいた。男は、喜太郎が近づくと、だん/\蹲まつたまゝで、身を退《ひ》かしてゐたが、壁の所まで、追ひ詰められると、矢庭に、スツクと立ち上つた。瑠璃子は、また恐ろしい格闘の光景《シーン》を想像した。が、瑠璃子の想像は忽ち裏切られた。
「やあ! 若旦那ぢやねえか!」
喜太郎は、驚駭とも何とも付かない、調子外れの声を出した。
瑠璃子も、その刹那弾かれたやうに立ち上つた。
「奥様! 若旦那だ! 若旦那だ。」
喜太
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