い物音が絶えなかつた。
「瑠璃子! 瑠璃子! 早く、早く。」
 援けを呼ぶ勝平の声は、だん/\苦しさうに喘いで来た。
 瑠璃子の心の裡に、もつと勝平を苦しませてやれ、かうした不意の出来事に依つて、もつと彼を懲してやれと云ふ、勝平に対する憎悪の心持と、平生の憎悪は兎に角、不時の災難に苦しんでゐる相手を、援けてやらうと云ふ人間的な心持とが、相争つた。
 其裡に、ゼイ[#「ゼイ」に傍点]/\と息も絶えさうに、喘ぎ始めた勝平の声が、聞え出した。
「苦しい! 苦しい! 人殺し! 人殺し!」
 勝平は、到頭最後の悲鳴を出してしまつた。さうした声を聞くと、瑠璃子の心にも、勝平に対する憐憫が湧かずには居なかつた。彼女は、始めて我に返つたやうに、台所の方に駆け出しながら、大声を出した。
「老爺《ぢいや》! 老爺! 早く来ておくれ! 泥棒! 泥棒!」
 瑠璃子の声も、スツカリ上ずツてしまつてゐた。が、さう叫んだ時、彼女の頭の中に突然恋人の直也の事が閃いた。彼は、勝平を射たうとして誤つて、美奈子を傷つけた為、危く罪人とならうとしたのを、勝平に対する父の子爵の哀訴のために、告訴されることを免れた。が、彼は敵《
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