た。
肉と肉とが、相搏つ音が、風雨の音にも紛れず、凄じい音を立てた。身体と身体とが、打ち合ふ音、筋肉と筋肉とが、軋み合ふ音、それは風雨の争ひにも、負けないほどに恐ろしかつた。
其の中《うち》にどう[#「どう」に傍点]と家中を揺がせる地響を打つて、一方が投げ出される音が聞えた、それに続いて転がり合ひながら、格闘する凄じい音が続いた。
「強盗だ! 強盗だ! 早く老爺《ぢいや》を呼んで来い! 瑠璃子! 瑠璃子!」
戦ひが不利と見えて、勝平の声は悲鳴に近かつた。
瑠璃子は、物事の烈しい変化に、気を奪《と》られたやうに、ボンヤリ闇の中に立つてゐた。身に迫つた危険を、思ひがけなく脱し得た安心と、新しく突発した危険に対する不安とで、心が一種不思議な動乱の中に在つた。
勝平の悲鳴を聴いてゐると、助けてやらねばならぬと思ひながら、一種の小気味よさを感ぜずにはゐられなかつた。自分に獣の如く迫つて来た彼が、突然の侵入者に依つて、脆くも取つて伏せられてゐる。さう思ふと瑠璃子の動乱した胸にも皮肉な快感が、ぞく/\とこみ上げて来る。
格闘は尚《なほ》続いた。組み合ひながら、座敷中をのたくつてゐる恐ろし
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