のはない。貴女は、その笑顔で俺《わし》を悩まし殺さうとしてゐるのだ。いや、俺《わし》ばかりぢやない! あの馬鹿の勝彦をまで悩ましてをるのぢや。」
 勝平の態度には、愈々《いよ/\》乱酔の萌《きざし》が見えてゐた。彼の眸は、怪しい輝きを帯び、狂人か何かのやうに瑠璃子をジロ/\と見詰めてゐた。
 風も雨も、海岸の此一角に、その全力を蒐めたかのやうに、益々《ます/\》吹き荒び降り増つた。が瑠璃子は人と人との必死の戦ひのために、さうした暴風雨の音をも、聞き流すことが出来た。
「疑心暗鬼と云ふことがございますね。貴君のは、それですよ。妾《わたし》を疑つてかかるから、妾《わたし》の笑顔迄が、夜叉の面《おもて》か何かのやうに見えるのでございますよ。」
 さう云ひながらも、瑠璃子はその美しい冷たい笑ひを絶たなかつた。勝平は、その巨きい身体をのたうつやうにして云つた。
「貴女は、俺《わし》を飽くまでも、馬鹿にしてをられるのぢや。貴女は人間としての俺《わし》を信用してをられんのぢや。貴女は、俺《わし》の人格を信じてをられないのぢや。俺《わし》に人間らしい心のあることを信じてをられないのぢや。よし、貴女が俺
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