、敵の甘言とも戦はなければならぬ。敵は、お前の誇《プライド》に媚びながら、逆にお前を征服しようとしてゐるのだ。余りに脆いのは敵でなくしてお前だ。』
 瑠璃子の冷たい理性は、覚めながらさう叫んだ。彼女は、ハツと眼が覚めたやうに、居ずまひを正しながら云つた。
「あら、あんな事を仰しやつて? 最初から、本当の妻ですわ。心からの妻ですわ。」
 さう云ひながら、彼女は冷たい、然しながら、美しい笑顔を見せた。


 嵐を衝いて

        一

 勝平は、瑠璃子の言葉だけは、打ち解けてゐても、笑顔は氷のやうに冷たいのを見ると、絶望したやうに云つた。
「あゝ貴女《あなた》は、何うしても俺《わし》を理解して下さらぬのぢや。俺《わし》の最初の罪を何うしても許して下さらぬのぢや。貴女は、俺《わし》と勝彦とを、操つて俺《わし》に、畜生道の苦しみを見せようとしてゐるのぢや。よい、それならよい! それならそれでよい! 貴女が、何時までも俺《わし》を敵《かたき》と見るのなら、俺《わし》も、俺《わし》も敵《かたき》になつてゐてもいゝ。俺《わし》が貴女の前に、跪いてこれほどお願《ねがひ》してゐるのに、貴女は俺《
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