では誰も、さうは思つてゐないのです。社会的に云へば、貴女は飽くまでも、荘田勝平の妻です。貴女も、かうした羽目に陥つたことを、不幸だと諦めて、心から俺《わし》の妻になつて下さらんでせうか。」
 勝平の眼は、熱のあるやうに輝いてゐた。瑠璃子も、相手の熱情に、ついフラ/\と動かされて、思はず感激の言葉を口走らうとした。が、その時に彼女の冷たい理性が、やつとそれを制した。
『相手が余りに脆いのではない! お前の方が余りに脆いのではないか。お前は、最初のあれほど烈しい決心を忘れたのか。正義のために、私憤ではなくして、むしろ公憤のために、相手を倒さうと云ふ強い決心を忘れたのか。勝平の口先|丈《だけ》の懺悔に動かされて、余りに脆くお前の決心を捨てゝしまふのか。お前は勝平の態度を疑はないのか。彼は、お前に降伏したやうな様子を見せながら、お前を肉体的に、征服しようとしてゐるのだ。兜を脱いだやうな風を装ひながら、お前に飛び付かうとしてゐるのだ。お前が、勝平の告白に感激して、お前の手を与へて御覧! 彼は、その手を戴くやうな風をしながら、何時の間にかお前を蹂み躙つてしまふのだ。お前は敵の暴力と戦ふばかりでなく
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