なた》を、何時までも名ばかりの妻として、束縛してゐたくはないのです。これが、どんな恐ろしい罪かと云ふことが分つてゐるのです。所がですね。初めはホンの意地から、結婚した貴女が、一旦形式|丈《だけ》でも同棲して見ると、……一旦貴女を傍に置いて見ると、死んでも貴女を離したくないのです。いや、死んでも貴女から離れたくないのです。」
 余程酒が進んで来たと見え、勝平は管を捲くやうにさう云つた。

        六

 風は益々吹き荒れ雨は益々降り募つてゐた。が、勝平は戸外のさうした物音に、少しも気を取られないで、瑠璃子が酌《つ》いでやつた酒を、チビリ/\と嘗《な》めながら、熱心に言葉を継いだ。
「まあ、簡単に云つて見ると、スツカリ心から貴女に惚れてしまつたのです! 俺《わし》は今年四十五ですが、此年まで、本当に女と云ふものに心を動かしたことはなかつたのです。勝彦や美奈子の母などとも、たゞ、在来《ありきたり》の結婚で、給金の入《い》らない高等な女中をでも、傭つたやうに考うて、接してゐたのです。金が出来るのに従つて、金で自由になる女とも沢山接して見ましたが、どの女もどの女も、たゞ玩具か何かのやうに
前へ 次へ
全625ページ中294ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング