の深川本所に大|海嘯《つなみ》を起して、多くの人命を奪つたばかりでなく、湘南各地の別荘にも、可なりヒドイ惨害を蒙らせたのであつた。
「まさか先度のやうな大暴風雨にはなるまいかと思ふが、時刻も風の方向《むき》もよく似てゐるでなあ!」
 老爺は、心なしか瑠璃子達を脅すやうに、首を傾げた。
 夜に入つてから、間もなく雨戸を打つ雨の音が、ボツリ/\と聞え出したかと思ふと、それが忽ち盆を覆すやうな大雨となつてしまつた、天地を洗ひ流すやうな雨の音が、瑠璃子達の心を一層不安に充たしめた。
 恐ろしい風が、グラ/\と家を吹き揺すつたかと思ふ途端に、電燈がふつと消えてしまつた。かうした場合に、燈火の消えるほど、心細いものはない。女中は闇の中から手探りにやつと、洋燈《ランプ》を探し当てゝ火を点じたが、ほの暗い光は、一層瑠璃子の心を滅入らしてしまつた。
 暗い燈火の下に蒐つてゐる瑠璃子と女中達を、もつと脅かすやうに、風は空を狂ひ廻り、波は断《しきり》なしに岸を噛んで殺到した。
 風は少しも緩みを見せなかつた。雨を交へてからは、有力な味方でもが加はつたやうに、益々《ます/\》暴威を加へてゐた。風と雨と波とが、
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