ながらも、必死になつてゐる顔色を見ると、瑠璃子は可なり心を動かされた。主人に慕ひ纏はつて来る動物に対するやうないぢらしさを、此の無智な勝彦に対して、懐かずにはゐられなかつた。
「あんなに行きたがつていらつしやるのですもの。連れて行つて上げてはいけないのですか。」
 瑠璃子は夫を振返りながら云つた。その微笑が、一寸皮肉な色を帯びるのを、彼女自身制することが出来なかつた。
「馬鹿な!」
 勝平は、苦り切つて、一言に斥けると、自動車の窓から顔を出しながら云つた。
「遠慮をすることはない。グン/\引き離して彼方《あつち》へ連れて行け。暴れるやうだつたら、何時かの部屋へ監禁してしまへ。当分の間、監視人を付けて置くのだぞ、いゝか。」
 勝平は、叱り付けるやうに怒鳴ると、丁度勝彦の身体が、多勢の力で車体から引き離されたのを幸《さひはひ》に、運転手に発車の合図を与へた。
 動き出した車の中で瑠璃子は一寸居ずまひを正しながら、背後に続いてゐる勝彦のあさましい怒号に耳を掩はずにはゐられなかつた。

        三

 葉山へ移つてから、二三日の間は、麗かな秋日和が続いた。東京では、とても見られないやう
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