ある。殊に、鍵のかかり得るやうな西洋室はない。瑠璃子を肉体的に支配してしまへば、高が一個の少女である。普通の処女がどんなに嫌ひ抜いてゐても、結婚してしまへば、男の腕に縋り付くやうに、彼女も一旦その肉体を征服してしまへば、余りに脆き一個の女性であるかも知れない。勝平はさう思つた。
「それなら丁度ようございますわ。三越へ行つて、彼方《あちら》で入用な品物を揃へて参りますわ。」
彼女は、身に迫る危険な場合を、少しも意に介しないやうに、寧《むし》ろいそ/\としながら云つた。
二
愛し合つた夫であるならば、それは楽しい新婚旅行である筈だけれども、瑠璃子の場合は、さうではなかつた。勝平と二人|限《きり》で、東京を離れることは、彼女に取つては死地に入ることであつた。東京の邸では、人目が多い丈《だけ》に、勝平も一旦与へた約束の手前、理不尽な振舞に出ることは出来なかつたが、葉山では事情が違つてゐた。今迄は敵と戦ふのに、地の利を得てゐた。小さいながらも、彼女の城廓があつた。殊に盲目的に、彼女を護つてゐる勝彦と云ふ番兵もあつた。が、葉山には、何もなかつた。彼女は赤手にして、敵と渡り合
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