譲つて貰つたのだが、此夏美奈子が避暑に行つた丈《だけ》で、俺《わし》はまだ二三度しか宿《とま》つてゐないのだ。秋の方が、静《しづか》でよいさうだから、ゆつくり滞在したいと思ふのだが。」
勝平は、落着いた口調で言つた。葉山へ行くことは、何の意味もないやうに云つた。が、瑠璃子には、その言葉の奥に潜んでゐる勝平のよからぬ意志を、明かに読み取ることが出来た。葉山で二人|丈《だけ》になる。それが何う云ふ結果になるかは瑠璃子には可なりハツキリ分るやうに思つた。が、彼女はさうした危機を、未然に避くることを、潔しとしなかつた。どんな危機に陥つても、自分自身を立派に守つて見せる。彼女には、女ながらさうした烈しい最初の意気が、ピクリとも揺いでゐなかつた。
「結構でございますわ、妾《わたくし》も、そんな所で静かな生活を送るのが大好きでございますのよ。」
彼女は、その清麗な面に、少しの曇も見せないで、爽かに答へた。
「あゝ行つて呉れるのか。それは有難い。」
勝平は、心から嬉しさうにさう云つた。葉山へさへ、伴つて行けば、当分勝彦と引き離すことが出来る上に、其処では召使を除いた外は、瑠璃子と二人切りの生活で
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