さうだ! 自分が小娘として、つまらない油断や、約束をしたのが悪かつたのだ。云はゞ降伏した敵将の娘を、妻にしてゐるやうなものである。美しい顔の下に、どんな害心を蔵してゐるかも知れない。
 が、さう警戒はしながら、瑠璃子を愛する心は、少しも減じなかつた。それと同時に、眼前の情景《シーン》に対する嫉妬の心は少しも減じなかつた。

        六

 勝平が、縁側《ヴェランダ》の欄干に、釘付けにされながら、二人の後姿が全く見えなくなつた若い楓の林を、ぢつと見詰めてゐる時に、その林の向うにある泉水の畔から、瑠璃子の華やかな笑ひが手に取るやうに聞えて来た。
 それは、雲雀《ひばり》の歌ふやうに、自由な快活な笑ひだつた。結婚して以来、もう一月以上の日が経つ内、勝平に対しては決して笑つたことのないやうな自由な快活な笑ひ声であつた。茲《こゝ》からは見えない泉水のほとりで、縦令《たとへ》馬鹿ではあるにしろ年齢《とし》だけは若い、身体|丈《だけ》は堂々と立派な勝彦が、瑠璃子と相並んで、打ち興じてゐる有様が、勝平の眼に、マザ/\と映つて来るのであつた。
 彼は苦々しげに、二人に向つてでも吐くやうに、唾を遥
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