つた。一人の男性が、妻の寝室の扉《ドア》の前に立つてゐる。それだけで、勝平の心を狂はすのに十分だつた。
 彼は、握りしめた拳を、顫はしながら、必死になつて、一歩々々|扉《ドア》に近づいた。が、相手は気味の悪いほど、冷静にピクリとも動かない。勝平が、最後の勇気を鼓して、相手の胸倉を掴みながら、低く、
「誰だ!」と、叱した時、相手は勝平の顔を見て、ニヤリと笑つた。それは紛れもなく勝彦だつたのである。
 自分の子の卑しい笑ひ顔を見たときに、剛愎な勝平も、グンと鉄槌で殴られたやうに思つた。言ひ現し方もないやうな不快な、あさましいと云つた感じが、彼の胸の裡に一杯になつた。自分の子があさましかつた。が、あさましいのは、自分の子|丈《だ》けではなかつた。もつと、あさましいのは、自分自身であつたのだ。
「お前! 何をしてゐるのだ! 茲《こゝ》で。」
 勝平は、低くうめくやうに訊いた。が、それは勝彦に訊いてゐるのではなく、自分自身に訊いてゐるやうにも思はれた。
 勝彦は、離れの日本間の方で寝てゐる筈なのだ。が、それがもう夜の二時過であるのに、瑠璃子の部屋の前に立つてゐる。それは、勝平に取つては、堪へられ
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