も御免あそばしませ。」
 瑠璃子は、自動車の窓から、親しさうに勝平を見返つた。
「もう遅いから、今宵は帰つて来なくつてもいゝよ。明日は、俺《わし》が容子を見に行つて上げるから。」
 勝平は、もういつの間にか、親切な溺愛する夫になり切つてしまつてゐた。
「さう。それは有難うございますわ。」
 彼女は、爽かな声を残しながら、戸外の闇に滑り入つた。が、自動車が英国大使館前の桜並樹の樹下闇を縫うてゐる時だつた。彼女の面《おもて》には、父の危篤を憂ふるやうな表情は、痕も止めてゐなかつた。人を思ふ通《とほり》に、弄んだ妖女《ウヰッチ》の顔に見るやうな、必死な薄笑ひが、その高貴な面《おもて》に宿つてゐた。


 護りの騎士

        一

 名ばかりの妻、これは瑠璃子が最初考へてゐたやうに、生易しいことではなかつた。彼女は、自分の操を守るために、あらゆる手段と謀計とを廻《めぐ》らさねばならなかつた。
 結婚後暫らくは、父の容体を口実に、瑠璃子は荘田の家に帰つて行かなかつた。勝平は毎日のやうに、瑠璃子を訪れた。日に依つては、午前午後の二回に、此の花嫁の顔を見ねば気が済まぬらしかつた。
 彼は訪
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