女は暫くの間、耳を傾けながら待つてゐた。やつと相手が出たやうだつた。
「あゝ唐沢ですか。妾《わたくし》瑠璃子なのよ。貴女《あなた》は婆や。」
 相手の言葉に聞き入るやうに、彼女は受話器にぢつと、耳を押し付けた。
「さう。あなたの方から、電話を掛けるところだつたの。それは、丁度よかつたのね。それでお父様の御容体は。」
 さう云ひ捨てると、彼女は又ぢつと聞き入つた。
「さう!……それで……入沢さんが、入らしつたの!……それで、なるほど……」
 彼女は、短い言葉で受け答をしながらも、その白い面《おもて》は、だん/\深い憂慮に包まれて行つた。
「えい! 重体! 今夜中が……もつと、ハツキリと言つて下さい! 聞えないから。なに、なに、お父様は帰つて来てはいけないつて! でもお医者は何と仰しやるの? えい! 呼んだ方がいゝつて! 妾《わたくし》! 何《ど》うしようかしら。あゝあゝ。」
 彼女は、もうスツカリ取り擾《みだ》してしまつたやうに、身を悶えた。
「何《ど》うしたのだ。何うしたのだ。」
 勝平は、遉に色を変へながら、瑠璃子の傍に、近づいた。
「あのう、お父様が、宅の玄関で二度目の卒倒を致しま
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