飢ゑた獣のやうに笑つたとき、遉《さすが》に瑠璃子の顔は蒼ざめた。
 が、彼女の態度は少しも乱れなかつた。
「あの、一寸電話をかけたいと思ひますの。父のその後の容体が気になりますから。」
 それは、此の場合突然ではあるが、尤もな希望だつた。

        七

「電話なら、女中にかけさせるがいゝ。おい唐沢さんへ……」
 と、勝平が早くも、女中に命じようとするのを、瑠璃子は制した。
「いゝえ! 妾《わたくし》が自身で掛けたいと思ひますの。」
「自身で、うむ、それなら、其処に卓上電話がある。」
 と、云ひながら、勝平は瑠璃子の背後を指し示した。
 いかにも、今迄気が付かなかつたが、其処の小さい桃花心木《マホガニイ》の卓の上に、卓上電話が置かれてゐた。
 瑠璃子は、淑《しと》やかに椅子から、身を起したとき、彼女の眉宇の間には、凄じい決心の色が、アリアリと浮んでゐた。
「あのう。番町の二八九一番!」
 瑠璃子は、送話器にその紅の色の美しい唇を、間近く寄せながら、低く呟くやうに言つた。
「番町の二八九一番!」
 さう繰り返しながら、送話器を持つてゐる瑠璃子の白い手は、かすかに/\顫へてゐた。彼
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