でございますの。」
「あゝマッチ! マッチなら、幾何《いくら》でもありますよ。」彼は、さう云ひながら、身を反らして、其処の炉棚《マンテルピース》の上から、マッチの小箱を取つて、瑠璃子の前へ置いた。
「マッチで、何をするのです。」勝平は不安らしく訊ねた。
 瑠璃子は、その問を無視したやうに、黙つて椅子から立ち上ると、鉄盤で掩うてあるストーヴの前に先刻三度目に着替へた江戸紫の金紗縮緬の袖を気にしながら、蹲まつた。
「貴君《あなた》、瓦斯《ガス》が出ますかしら。」彼女は、其処で突然勝平を、見上げながら、馴々しげな微笑を浴びせた。
 初めて、貴君《あなた》と呼ばれた嬉しさに、勝平は又相好を崩しながら、
「出るとも、出るとも。瓦斯《ガス》は止めてはない筈ですよ。」
 勝平が、さう答へ了らない裡に、瑠璃子の華奢な白い手の中に燐寸《マッチ》は燃えて、迸り始めた瓦斯《ガス》に、軽い爆音を立てゝ、移つてゐた。
 瑠璃子は、その火影に白い顔をほてらせて、暫らく立つてゐたが、ふと身体を飜すと、卓の上にあつた証書を、軽く無造作に、薪をでも投ぐるやうに、漸く燃え盛りかけた火の中に投じてしまつた。
 呆気に取られ
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