いのです。少し足りない人間ですが、悪気はありませんよ。極く単純で、此方《こつち》の云ふことは可なり聴くのです。おい勝彦! これが、お前のお母様だよ。さあ/\挨拶するのだ。」
 勝彦は、瑠璃子の顔を、ジロ/\と見詰めてゐたが、父にさう促されると急に気が付いたやうに、
「お母様ぢやないや。お母様は死んでしまつたよ。お母様は、もつと汚《きたな》い婆あだつたよ。此人は綺麗だよ。此人は美奈ちやんと同じやうに、綺麗だよ。お母様ぢやないや、ねえさうだらう、美奈ちやん。」彼は妹に同意を求めるやうに云つた。妹は顔を、火のやうに赤くしながら、兄を制するやうに云つた。
「お母様と申上げるのでございますよ。お父様のお嫁になつて下さるのでございますよ。」
「何んだ、お父様のお嫁! お父様は、ずるいや。俺に、お嫁を取つて呉れると云つてゐながら、取つて呉れないんだもの。」
 彼は、約束した菓子を貰へなかつた子供のやうに、すね[#「すね」に傍点]て見せた。
 瑠璃子は、その白痴な息子の不平を聞くと、勝平が中途から、世間体を憚つて、自分を息子の嫁にと、云ひ出したことを、思ひ出した。金で以て、こんな白痴の妻――否弄び物に
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