とし四五人の人々が寂しく取り残された丈だつた。
 瑠璃子の父は、幸《さひはひ》に軽い脳貧血であつた。呼びにやつた医者が来ない前に、もう、常態に復してゐた。が、彼は黙々として自分を取り囲んでゐる杉野や勝平には、一言も言葉をかけなかつた。
 父が、用意された自動車に、やつと恢復した身体を乗せて、今宵からは、最愛の娘と離れて、たゞ一人住むべき家へ帰つて行く後姿を見ると、鉄のやうに冷くつぼんでゐる瑠璃子の心も、底から掻き廻はされるやうな痛みを感ぜずにはゐられなかつた。
 瑠璃子は、父の自動車に身体をピツタリと附けながら、小声で云つた。
「お父様暫らく御辛抱して下さいませ。直きにお父様の許へ帰つて行きます。どうぞ、妾《わたくし》を信じて待つてゐて下さいませ。」
 遉《さすが》に彼女の眼にも、湯のやうな涙が、ほたほたと溢れた。
 父は、瑠璃子の言葉を聴くと大きく肯きながら、
「お前の決心を忘れるな。お父さんが、今宵受けた恥を忘れるな。」
 父が低く然し、力強くかう呟いた時、自動車は軽く滑り出してゐた。
 父を乗せた自動車が、出で去つた後の車寄に附けられた自動車は、荘田がつい此間、伊太利《イタリー》
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