父の手が、子の右の手に触れた刹那だつた。轟然たる響は、室内の人々の耳を劈《つんざ》いた。
 その響きに応ずるやうに、荘田も木下も子爵も「アツ。」と、叫んだ。それと同時に、どう[#「どう」に傍点]と誰かが崩れるやうに倒れる音がした。帛を裂くやうな悲鳴が、それに続いて起つた。その悲鳴は、荘田の口から洩るゝやうな、太いあさましい悲鳴とは違つてゐた。

        八

 父の手が直也の手に触れた丁度その刹那に、発せられた弾丸は、皮肉にも二十貫に近い荘田の巨躯を避けて、わづかに開かれた扉《ドア》の隙から、主客の烈しい口論に、父の安否を気遣つて、そつと室内をのぞき込んでゐた荘田の娘美奈子の、かよわい肉体を貫ぬいたのであつた。
 荘田は娘の悲鳴を聞くと、自分の身の危さをも忘れて飛び付くやうに、娘の身体に掩ひかゝつた。
 美奈子は、二三度起き上らうとするやうに、身体を悶えた後に、ぐつたりと身体を、青い絨毯の上に横へた。絶え入るやうな悲鳴が続いて、明石縮らしい単衣《ひとへ》の肩の辺に出来た赤黒い汚点《しみ》が、見る見る裡に胸一面に拡がつて行くのだつた。
「美奈子! 気を確《たしか》に持て! お
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