せん。荘田勝平と云ふ人間の姿で、現れた現代の社会組織の悪です。金の力で、どんなことでも出来るやうな不正な不当な社会全体です。金さへあれば、何《なん》でも出来ると云つたやうな、その思想です。観念です。妾《わたくし》は、それを破つて見たいと思ふのです。」
 瑠璃子は、処女らしい羞恥心を、興奮のために、全く振り捨てゝしまつたやうに、叫びつゞけた。
 父は、子の烈しい勢を、持ち扱つたやうに、黙つて聞いてゐた。
「それに、お父様! ユーヂットは、操を犠牲にしましたが、それは相手が、勇猛無比なホロフェルネス、操を捨てゝかからなければ、油断をしなかつたからです。妾《わたくし》は、妻と云ふ名前ばかりで、相手を懲し得る自信があります。何うか妾《わたくし》を無いものと、お諦めになつて、三月か半年かの間、荘田の許へやつて下さいまし。匕首《あひくち》で相手を刺し殺す代りに、精神的にあの男を滅ぼして御覧に入れますから。」
 其処には、もう優しい処女の姿はなかつた。相手の卑怯な執念深い迫害のために、到頭最後の堪忍を、し尽して、反抗の刃を取つて立ち上がつた彼女の姿は、復讐の女神その物の姿のやうに美しく凄愴だつた。

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