戦つて見たいと思ふのです。」
 二千有余年も昔の、猶太《ユダヤ》の少女の魂が、大正の日本に、甦つて来たやうに、瑠璃子は炎の如く熱狂した。
 が、父は冷静だつた。彼は、熱狂し過ぎてゐる娘を、宥《なだ》めるやうに、言葉静かに説き諭した。
「瑠璃子! お前のやうに、さう熱しては困る。女の一番大事な貞操を、犠牲にするなどと、そんな軽率なことを考へては困る。数万の人の命に代るやうな、大事な場合は、大切な操を犠牲にすることも、立派な正しいことに違ひない。が、あんな獣のやうな卑しい男を、懲すために、お前の一身を犠牲にしては、黄金を土塊《つちくれ》と交換するほど、馬鹿々々しいことぢやないか。」
「だが、お父様!」と、瑠璃子は直ぐ抗弁した。
「相手は、お父様の仰《おつ》しやる通り、取るに足りない男には違ひありません。が、現在の社会組織では人格がどんなに下劣でも、金さへあれば、帝王のやうに強いのです。お父様は、相手を『獣のやうに卑しい男』とお蔑すみになつても、その卑しい男が、金の力で、お父様のやうな方に、こんな迫害を加へ得るのですもの。妾《わたくし》が、戦はなければならぬ相手は荘田勝平と云ふ個人ではありま
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