、漸く身を起した。額の所へ擦り傷の出来た彼の顔色は、凡ての血の色を無くしてゐた。彼はオヅ/\車内をのぞき込んだ。
「何処もお負傷《けが》はありませんか。お負傷《けが》はありませんか。」
「馬鹿! 負傷《けが》どころぢやない。大変だぞ。」と、信一郎は怒鳴りつけずにはゐられなかつた。彼は運転手の放胆な操縦が、此の惨禍の主なる原因であることを、信じたからであつた。
「はつはつ。」と運転手は恐れ入つたやうな声を出しながら、窓にかけてゐる両手をブル/\顫はせてゐた。
「君! 君! 気を確《たしか》にしたまへ。」
信一郎は懸命な声で青年の意識を呼び返さうとした。が、彼は低い、ともすれば、絶えはてさうなうめき[#「うめき」に傍点]声を続けてゐる丈《だけ》であつた。
口から流れてゐる血の筋は、何時の間にか、段々太くなつてゐた。右の頬が見る間に脹《は》れふくらんで来るのだつた。信一郎は、ボンヤリつツ立つてゐる運転手を、再び叱り付けた。
「おい! 早く小田原へ引返すのだ。全速力で、早く手当をしないと助からないのだぞ。」
運転手は、夢から醒めたやうに、運転手席に着いた。が、発動機の壊れてゐる上に、前方
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