《わし》もさう思つてやつたのだ。が、向うでは初《はじめ》から謀つてやつた仕事だ。俺《わし》が少しでも、蹉《つまづ》くのを待つてゐたのだ。蹉けば後から飛び付かうと待つてゐたのだ。」
 瑠璃子の胸は、荘田に対する恐ろしい怒《いかり》で、火を発するばかりであつた。
「人非人|奴《め》! 人非人奴! どれほどまで執念《しふね》く妾達《わたしたち》を、苦しめるのでございませう。あゝ口惜しい! 口惜しい!」
 彼女は、平生のたしなみも忘れたやうに、身を悶えて、口惜しがつた。
「お前が、さう思ふのは無理はない。お父様だつて、昔であつたら、そのまゝにはして置かないのだが。」
 父の顔は益《ます/\》凄愴な色を帯びてゐた。
「あゝ、男でしたら、男に生れてゐましたら。残念でございます。」
 さう云ひながら、瑠璃子は卓の上に、泣き伏した。
 何処かで、一時を打つ音がした、騒がしい都の夏の夜も、静寂に更け切つて、遠くから響いて来る電車の音さへ、絶えてしまつた。瑠璃子の泣き声が絶えると、深夜の静けさが、しん/\と迫つて来た。
「それで、その告訴は何《ど》うなるのでございますか。まさか取上げにはなりませんでせうね
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