、疑ひが咽喉まで出かゝるのを、瑠璃子は、やつと抑へ付けた。
ユーヂット
一
一家の危機は過ぎた。六月は暮れて、七月は来た。が、父の手文庫の中に奇蹟のやうに見出された、三万円以上の、巨額な紙幣に対する、瑠璃子の心の新しい不安は、日の経つに連れても、容易には薄れて行かなかつた。
七月も半《なかば》になつた。庭先に敷き詰めた、白い砂利の上には、瑠璃子の好きな松葉牡丹が、咲き始めた。真紅や、白や、琥珀のやうな黄や、いろ/\変つた色の、少女のやうな優しい花の姿が、荒れた庭園の夏を彩る唯一の色彩だつた。
荘田の、思ひ出す丈《だけ》でも、憤《いきどほ》ろしい面影も、だん/\思ひ出す回数が、少くなつた。鷲鼻の男の顔などは、もう何時の間にか、忘れてしまつた。凡てが、一場の悪夢のやうに、その厭な苦い後感も何時しか消えて行くのではないかと思はれた。
が、それは瑠璃子の空しい思違《おもひちがひ》だつた。悪魔は、その最後の毒矢を、もう既に放つてゐたのだつた。
七月の末だつた。父は、突然警視総監のT氏から、急用があると云つて、会見を申し込まれた。父は、T氏とは公開の席で、二三度
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