け》は妻でも、本当はその金力を示すための装飾品に――しようとした。が、瑠璃子の父が、予想以上に激怒したのと、年齢の余りな相違から来る世間の非難とを慮《おもんぱか》つて、自分の名義で買ふ代りに、息子の名義で買はうとする、瑠璃子を商品と見てゐる点に於ては、何の相違もない。瑠璃子と彼女の恋人とを思ひ知らせようとする、蛇のやうな執念には何の相違もない。正面から飛びかゝつて父から、手ひどく跳付《はねつ》けられた悪魔は、今度は横合から、そつと騙《たぶら》かさうと掛つてゐるのだつた。
八
瑠璃子には、相手の心が十分に見透かされてゐる。が、相手の本心を知らない父は、その空々しい上部《うはべ》の理由|丈《だけ》に、うか/\と乗せられて、もしや相手の無躾な贈り物を、受け取りはしないかと、瑠璃子はひそかに心を痛めた。縁談などとは別にと、口で美しく云ふものゝ、父が相手の差し出す餌にふれた以上、それを機《しほ》に、否応なしに自分を、浚つて行かうとする相手の本心が、彼女には余りに明かであつた。
父を何《ど》うにか騙《だま》して娘を浚つて行く、それで娘にも、彼女の恋人にも、苦痛を与へればよい
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