お嬢さまに求婚するなどと笑ひ話にもなりません。実は、当人と申すのは私の倅、今年二十五になります。亡妻の遺児《わすれがたみ》です。」
一寸殊勝らしく声を落しながら、
「その倅とても、年こそお嬢様に似合ひでございますが、いやもう一向下らない人物です。が、若《も》し万一お嬢様を下さるやうな事がありましたら、これほど有難い――私の財産を半分無くしても惜しくはない――仕合せだと思ひますのですが。が、そのお話は、兎も角、閣下の御債務は凡て、私に払はせていたゞきたいと思ひましたから、一月あまりも心掛けて、もう大抵は買ひ蒐めた積りでございますが、縁談のお話などとは別に、これ丈は私の寸志です。どうか御心置きなく、お受取り下さるやうに。」さう云ひながら、父の負うてゐる借財の証書の全部を一つの袋に収めて父の前に差し出したらしかつた。
虚心平気に、勝平の云ひ分を聴けば、無躾なところは、あるにせよ、成金らしい傲岸な無遠慮なところはあるにせよ、それほど、悪意のあるものとは思はれなかつた。が、瑠璃子にはさうではなかつた。瑠璃子と、その恋人とを思ひ知らせるために、悪魔は、瑠璃子を奪つて、自分の妻に――名前|丈《だ
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