のです。多年の間、利慾権勢に目もくれず、たゞ国家のために、一意奮闘していらつしやる。かう云ふお方こそ、本当の国士本当の政治家だと思つたのです。」
 父が、面と向つてのお世辞に、苦り切つてゐる有様が、室外にゐる瑠璃子にもマザ/\と感ぜられた。
「御存じの通り、私は外に能のある人間でありません。たゞ、二三年来の幸運で、金|丈《だけ》は相当儲けました。私は、今何に使つても心残りのない金を、五百万円ばかり現金で持つてゐます。あゝ使へ、かう寄附しろと云つて呉れる人もありますが、私は閣下のやうなお方に、後顧の憂ひなからしめ、国家のために思ひ切り奮闘していたゞけるやうにする事も、可なり意義のある立派な仕事だと思つたのです。それには、是非ともお交際を願つて、いろ/\な立ち入つた御相談にも、与《あづか》らせて戴きたいと、それで実はあんな突然なお申込を……」
 さう云つて、言葉を切つた、がいかにも恐縮に堪へないと云ふ口調で、
「ところが、その申込が杉野さんの思ひ違《ちがひ》で、と云ふよりも、あの方の軽率から、私がお嬢さまをお望み致したなどととんでもない。ハヽヽヽ。御立腹遊ばすのは当然です。五十に近い私が、
前へ 次へ
全625ページ中152ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング