はじめ》から申上げねば分りませんが、実は私は閣下の崇拝者です。閣下の清節を、平生から崇拝致してゐる者であります。」
さう云つて、勝平は叮嚀に言葉を切つた。老狐が化さうと思ふ人間の前で、木の葉を頭から被つてゐるやうな白々しさであつた。人を馬鹿にしてゐる癖に、態度|丈《だけ》はいやに、真剣に大真面目であるやうだつた。
「殊に近頃になつて、所謂政界の名士達なるものと、お知己《ちかづき》になるに従つて、大抵の方には、殆ど愛想を尽《つか》してしまひました。お口|丈《だけ》は立派なことを云つていらしつても、一歩裏へ廻ると、我々町人風情よりも、抜目がありませんからな。口幅《くちはゞ》つたいことを、申す様でございますが、金で動かせない方と云つたら、数へる丈《だけ》しかありませんからね。」
父は黙々として、一言も発しなかつた。いざと云ふ時が来たら、一太刀に切つて捨てようとする気勢《けはひ》が、あり/\と感ぜられた。が、勝平は相手の容子などには、一切頓着しないやうに、臆面もなく話し続けた。
「いつか、日本倶楽部で、初めて閣下の崇高なお姿に接して以来、益々《ます/\》閣下に対する私の敬慕の念が高くなつた
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