眉をひそめた。暫らくは開いて見ようとはしなかつた。
「何と申して参つたのでございませう。」瑠璃子は、気になつて、急《せ》かすやうに訊いた。
父は、荒々しく封筒を引き破つた。
「何だ!」父の声は、初から興奮してゐた。
「――此度小生に於て、買占め置き候貴下に対する債権に就て、御懇談いたしたきこと有之《これあり》、且つ先日杉野子爵を介して、申上げたる件に付きても、重々の行違《ゆきちがひ》有之《これあり》、右釈明|旁々《かた/″\》近日参邸いたし度く――あゝ何と云ふ図々しさだ。何と云ふ! 獣のやうな図々しさだ。よし、やつて来い。やつて来るがいゝ。来れば、面と向つて、あの男の面皮を引き剥いて呉れるから。」
父は、さう云ひながら、奉書の巻紙を微塵に引き裂いた。老い凋《しな》んだ手が、怒《いかり》のために、ブル/\顫へるのが、瑠璃子の眼には、傷《いた》ましくかなしかつた。
六
父も瑠璃子も、心の中に戦ひの準備を整へて、荘田勝平の来るのを遅しと待つてゐた。
手紙が来た日の翌日の午前十時頃、瑠璃子が、二階の窓から、邸前の坂道を、見下してゐると、遥《はるか》に続いてゐるプラタ
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