、自分の父を頼もしく思はずにはゐられなかつた。

        五

 唐沢の家を呪咀するやうな、その不快な通知状は、その翌日もその又翌日も、無心な配達夫に依つて運ばれて来た。
 初《はじめ》ほどの驚駭《ショック》は、受けなかつたけれども、その一葉々々に、名状しがたい不快と不安とが、見る人の胸を衝いた。
「なに、捨てゝ置くさ。同一人に債権の蒐まつた方が、弁済をするにしても、督促を受くるにしても手数が省けていゝ。」
 父は何気ないやうに、済ましてゐるやうだつたが、然し内心の苦悶は、表面《うはべ》へ出ずにはゐなかつた。殊に、父は相手の真意を測りかねてゐるやうだつた。何のために、相手がこれほど、執念深く、自分を追窮して来るのか、判りかねてゐるやうだつた。
 が、瑠璃子には相手の心持が、判つてゐる丈、わづかばかりの恨を根に持つて、何処までも何処までも、付き纏つて来る相手の心根の恐ろしさが、しみ/″\と身に浸みた。通知状を見る度に、相手に対する憎悪で、彼女の心は一杯になつた。彼の金力を罵つた自分達丈を苦しめる丈なら、まだいゝ、罪も酬いもない老いた父を、苦しめる相手の非道を、心の底より憎まずには
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