の子から理解せられない、それほど淋しいことが、世の中にあるだらうかと思ふと、瑠璃子は、父に言葉をかける力もなくなつて、その儘床の上に、再び泣き崩れた。
 最愛の娘の涙に誘はれたのであらう。老いた政治家の頬にも、一条の涙の痕が印せられた。
「瑠璃子!」父の声には、先刻《さつき》のやうな元気はなかつた。
「はい!」瑠璃子は、涙声でかすかに答へた。
「出て行つたかい! 彼《あれ》は?」遉《さすが》に何処となく恩愛の情が纏はつてゐる声だつた。
「はい!」彼女の声は前よりも、力がなかつた。
「いやいゝ。出て行くがいゝ。志を異にすれば親でない、子でない、血縁は続いてゐても路傍の人だ。瑠璃子! お前には、父さんの心持は解るだらう。お前|丈《だけ》は、俺《わし》の心持は解るだらう。お前が男であつたら、屹度お父さんの志を継いで呉れるだらうとは、平生思つてゐるのだが。」父は元気に云つた。が、声にも口調にも力がなかつた。
 瑠璃子は、それには何とも答へなかつた。が、瑠璃子の胸に、一味焼くやうな激しい気性と、父にも兄にも勝るやうな強い意志があることは、彼女の平生の動作が示してゐた。それと同じやうに、貴族的な気
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