づま》のやうに、彼の心にある悪魔的な考へが思ひ浮かんだ。その考へは、電のやうに消えないで、徐々に彼の頭に喰ひ入つた。
まだ、春の日は高かつた。彼が招いた人達は園内の各所に散つて、春の半日を楽しく遊び暮してゐる。が、その人達を招いた彼|丈《だけ》は、たゞ一人怏々たる心を懐いて、長閑《のどか》な春の日に、悪魔のやうな考へを、考へてゐる。
「あら、まだ茲《こゝ》にいらしつたの、方々探したのよ。」
突如、後に騒がしい女の声がした。先刻の芸妓達が帰つて来たのである。
「さあ! 彼方《あつち》へいらつしやい。お客様が皆、探してゐるのよ。」二三人彼のモーニングコートの腕に縋つた。
「あゝ行くよ行くよ。行つて酒でも飲むのだ。」彼は、気の抜けたやうに、呟きながら、芸妓達に引きずられながら、もう何の興味も無くなつた来客達の集まつてゐる方へ拉《らつ》せられた。
父と子
一
『またお父様と兄様の争ひが始まつてゐる。』さう思ひながら、瑠璃子は読みかけてゐたツルゲネフの『父と子』の英訳の頁《ページ》を、閉ぢながら、段々高まつて行く父の声に耳を傾けた。
『父と子』の争ひ、もつと広い言葉
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